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【D進】博士進学を決める前の3つのポイント

私は数年前に材料分野の博士号(工学)を取得しました。修士と合わせて5年間に渡り大学院で研究し、今は民間企業で働いています。そこで経験した研究生活の苦楽を元に、博士課程への進学を考えている人が満たすべき条件についてまとめてみました。もちろん色々な意見があるでしょうから、そのうちの1つとして参考にして頂ければ幸いです。

どのような研究環境がその学生にとって最適か、という問題に対する答えは人それぞれではありますが、私個人の経験から、博士課程の生活を実り多いものにし、その後の人生を豊かにするためには以下の3つのポイントを守ることが多くの場合において大切だと思いました。

  1. 経済的な支援を受けられる
  2. 研究が好きである
  3. 専門分野が発展途上である
  • 経済的な支援を受けられる

これは博士号を取得するためにも、卒業後の人生を考える上でも極めて重要です。衣食住・学費の問題を解決できなければそもそも進学できませんし、研究時間を確保するためにもアルバイトはあまりお勧めできません。また貸与型奨学金のみに依存すると多くの借金を抱えた状態で卒業することとなり、後の人生の大きな足かせになります(例えば学部・修士・博士でそれぞれ200, 100, 300万の奨学金を獲得した場合、卒業後の借金は600万円に上ります)。それに、お金の余裕は心の余裕とも言います。ストレスの多い研究生活ですから、せめて経済的には安定していたいところです。

そのため、博士課程へ進学する場合には(i)学部4年・修士1年で成果を出し学術振興会のDC1(またはDC2)を得られる見込みがある、(ii)企業や財団の給付型奨学金を獲得する、(iii)両親が金持ちで博士課程でも生活費を出してくれる、(iv)大学、研究室、研究機関が給料を出してくれる、(v)大学が実家から近く衣食住を心配する必要がない、といった条件のうち少なくとも1つは満たされていることが望ましいと思います。私の場合は(iv)で、月20万円の給料を研究室から得ることができました(そこから税金や学費、生活費すべてを捻出していたのでキツキツの生活でしたが)。これがなければ博士課程には進学していないでしょう。

  • 研究が好きである

研究が好きな人が博士課程進学に向いています。常に研究が好きである必要はありません。失敗が続いたり装置が壊れたりしたら落ち込みますし、研究が嫌になることもあると思います。浮き沈みがあるのは当然のことです。ですが、基本的には研究が好きである、という点を守ることが重要です。

研究が嫌いなのに博士課程に進学すべきではありません。例えば(i)就職活動が嫌だから進学する、(ii)教授という肩書を得たいから進学する、という人がいます。研究生活で立ちはだかる困難を乗り越えるモチベーションにはなり辛いので、これらの理由で博士課程に進学すべきではないでしょう。そもそも博士課程修了後には就職活動をしなければいけませんし、肩書を得たところでどうするというのでしょう。

それともう一つ、(iii)人の(社会の)役に立つ成果を上げるために進学する、という動機もあります。これは大変素晴らしい目標ですが、研究が好きであるかどうかをしっかり自問自答しましょう。研究は嫌いだが社会貢献したいという場合は、進むべき道はアカデミアではないでしょう。

  • 専門分野が発展途上である

博士課程が学部・修士と異なるのは、研究成果を必ず上げなければいけない点です。そのためには自分の研究対象とする分野が発展途上であり、伸びしろがあることが重要だと思います。比較的歴史の浅い分野では、先人たちの蓄積が少なく研究されたことのないテーマが数多く眠っています。この場合成果は出しやすく、学位取得への道も開けその後の研究者としてのキャリアにも大きな追い風となります。ただし、その分野に伸びしろがあるかというのは全くの素人には判断しかねる問題です。また先進的すぎる成果は学会に認められないかもしれませんし、そもそも本当に価値がないかもしれません。ですからこの項目は重要とはいえ、自力で見極めるのが難しいでしょう。歴史が短いだとか、プレーヤーが少ないことがヒントになるかもしれません。難しいけれど、じっくり考えてみる必要があります。

逆に、分野が成熟し発展の余地が少なくなると研究成果も上げにくくなります。分野が成熟すると、新しく斬新な研究テーマが無くなってきます。そうなると実験条件を少し変えただけの小粒な研究に終始せざるを得なくなるケースが多いように思われます。この場合、博士の研究生活は辛く厳しいものになります。また研究者としてのキャリア形成にも不利に働くでしょう。ちなみにこれは博士だけでなく大学の先生にとっても重要なポイントです。自分が強みとしてきた分野が成熟し、成果を上げられなくなった人たちもたくさんいます。

 

以上は私自身、そしてまわりの博士の友人たちを見て得られた知見です。経済的な問題を解決した上で進学する人が多いですが、600万の借金を抱え博士号を取れなかった人もいます。研究が好きで3年間休まず研究する人もいますし、モチベーションが続かず退学した人もいます。研究テーマが当たり修士でトップジャーナルに論文を掲載した人もいるし、テーマが(あるいは分野が)悪く博士号取得に3年以上費やす人もいます。こういった博士たちの人生模様を見てきて、3つのポイントを守れたら、ハッピーになれるんじゃないかと考えた次第です。